抜かずして勝つ。抜く時は死ぬる気で抜く。
居合術とは居て合わす術であり、言わば護身術のようなものです。いざという時に、己の命、守るべき者の命のために抜きます。
居合使いは、一生に一度あるかないかの命のかけひきに備え、毎日人知れず稽古を積み、業を鍛錬します。
ですので、無闇矢鱈に自ら人前に出て、業をみせびらかすものでは無いのです。
争いを好まず、争いの種を生まず、目立たず、主張せず、世の中に流されず、質素に。そうやって生涯修行し研鑽を積む。それが居合使いなのです。
戦わなければ自分が死ぬ事も、相手を殺める事も無い。「抜かずして勝つ」とはそういった戦国当時の侍に多く見られた考え方です。
この考え方は、古流居合術を修行する者の着物や装備に見て取れます。
着物は地味に、黒や藍を好み、刀にも派手な装飾はありません。
土佐直伝英信流は、古流居合術を古より変える事なく伝えてきた流派であり、そういった当時の侍たちの理念も現代の剣士達に継承されています。
大きな大会などで、いろいろな流派の剣士たちが、雅な着物で一同に揃う中、土佐の剣士が地味な着物に質素な刀を腰に刺し、目立たず佇む光景は、少し異様かもしれませんが、これも古流ならではなのです。
居合とは、刀を振り回すだけがそれではありません。人の生き様そのものに居合があります。
今は亡き師匠が私に伝えてくれた事であり、師匠も土佐の先先代のご宗家から教わったそうです。
大切に継承していきたい土佐の教えです。
絵と文 : 東京支部 杉浦
0コメント